優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
簡単に呼び出されて、こちらに確認もせず、渚生らしくもない。
なぜ、ここにきたのだろう。

「それじゃ、せっかくだから、今園さん。ディナーを食べて帰ろうか?」

「は!?なぜ私が?」

もう仕事は終わったはずだ。
人目のある場所で二人っきりでディナーを食べたら、それこそ週刊誌のネタになる。

「俺一人でホテルディナーはさすがにね?」

「今園。料理がもったない。ディナーを楽しんでこい」

「はあ―――」

やられた。
私はこの二人の罠に嵌められたのだ。
日奈子さんを口実に私を誘き出し、ホテルディナーをさせる。
私が結婚を渋っている上に外で会ってくれないと壱哉さんに相談したに決まっている。
にやにやと二人は私を見て笑っていた。
なんて―――策士。

「ほら、行こう?」

渚生は腕を差し出した。

「いけません!私達の関係が明るみにでます」

冷静になって、と焦りながら小さい声で言うと、渚生は笑って言った。

「いいんだよ、俺は。むしろ、見てもらおうか」

そう言って、渚生はキスをした。
周囲の視線が痛い。
とんでもない人だ。
この人は。
私をこんなに動揺させるのだから。
私の秘密がまた一つ消えてなくなった―――身軽になっていく自分の体を感じていた。
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