優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
私はなにを言っているのだろう。
尾鷹のおば様は私を気に入ってくださっている。
だから、日奈子も入社できた。
そう―――壱哉が誰を好きなのかは問題じゃない。
付き合うのは無理でも結婚なら?

「中途半端な恋人でいるよりも水和子ちゃんもいい年齢でしょう?壱哉と婚約したらどうかしら?」

「でも、壱哉はまだそんな気分じゃないみたいなんです」

「それは私と夫から言い聞かせるわよ。いつまでも独身でいられないでしょう?尾鷹の跡取り息子なんだもの」

「はい、ありがとうございます」

私の口からはすらすらとそんな言葉が出た。

「よかったわ。承諾してもらえて。話はそれだけよ」

話が終わったようなので、車から降りておば様に微笑み、頭を下げた。

「今度、改めて話をしましょうね。夫には水和子ちゃんの気持ちは伝えておくから」

満足そうにおば様は言って、手を振り、赤のフェラーリを運転して去って行った。
おば様のきつい香水の匂いが体についてしまったような気がして、不快だったけれど、壱哉と結婚できるかもしれないと思うと、満足だった。
これで私の面目は保たれ私が壱哉にフラれたなんて誰にも言えなかった。
周りは私が壱哉と付き合っていると思っているし、結婚するものだと信じている。
今さら、私と壱哉が離れる?
そんなことできるわけないでしょう?
私と壱哉が結婚。
今までの努力は無駄ではなかった。
そう考えると一気に気分が良くなり、私は春の日差しが明るいのを感謝した。
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