優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
杏美ちゃんはまた言いたいことだけ言って、部屋から出て行った。
いなくなると、一人だけの部屋はしーんとしていて、嵐が去った後のようだった。
杏美ちゃんはそれでいいのかな。
別に好きな人がいるんじゃないの?
暗い気持ちになりながら、手元の書類に視線を落とした。

「仕事しよう」

書類を仕分けながら、付箋(ふせん)でどこに持っていくのものなのか、印をつける。
以前に杏美ちゃんが『尾鷹商事はお兄様あっての尾鷹商事』と言ったけれど、その通りで会社の重要な決定のすべては壱哉さんが担っているようなものだった。
だから、書類も多いし、仕事量も他の役員に比べると段違いに多い。
こんな忙しいのに私が秘書でいいのかなって思うくらいだ。
今園(いまぞの)室長がフォローしてくれているおかげで手の遅い私でもなんとかやれている。
手土産や季節に送る品物を選んで今園室長に言うだけで手配してくれるし、お礼状の送付リストを作成して渡すとそれをすべて郵送してくれる。
あんな人になりたかったなぁ……。
そしたら、もっと壱哉さんの役に立てるのに。
そんなことを思っていると、スマホの着信音が鳴った。
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