キミを描きたくて
「会長〜...って」


夕食ができあがり、会長に声をかけようとリビングを見る。

すると、ソファーで会長が寝ていた。


「会長、ご飯出来ましたよ」

「......」


返事がない。ただの屍のようだ。

そう言うかのように、本当にピクリともしない。


長いまつ毛、程よく深い彫り、高すぎず低すぎない鼻と、バランスの良いパーツの配置。

やはり、描きたい。


「か、会長、起きてください」


会長の肩に触れる。
ぴくり、そう目が動いて、やっと起きた。


「......なんで、じっと見てたの」

「...し、知りません」


ほらご飯ですよ、そう言って食器を食卓に乗せる。

...誰かと食べるのなんて、いつぶりだろうか。
昼食でさえ一人で食べてるし...


「わ、美味しそう」

「冷蔵庫にあるもの使ったので適当ですが...」

「適当でも美味しければ大丈夫」


ありがとう、そういってにっこり笑う。

会長が野菜炒めを食べる。
その感想を待ちながら、私は麦茶を一口飲んだ。


「美味しい」

「...なら良かったです」


美味しいと言われて少し嬉しくなる。
でもそれを露骨に出す訳にはいかず、私は味噌汁を飲んだ。
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