キミを描きたくて
「ダメだよ依茉、手があれば絵が描けるじゃない」

「お兄ちゃんは何も分かってない!!」


足で物を踏む感触、手で触れた感触、外の空気、気温、湿度、物音、人の声…

その全てが、私のセンスを駆り立て、キャンバスにぶつかる。

その時に素晴らしい作品ができるというのに。
こんな籠の檻で、何を描ける?

絵を描けないことへの絶望?兄への失望?
はたまた、この部屋の天井?


「お兄ちゃんには何も分かってない、絵の何もかもが」

「どうして?昔は二人でいればそれで良かったじゃん」

「今は違う。…ずっと家族のフリをして騙してたくせに」


そう、私は騙されていた。
偽物の家族愛に溺れていた。

偽物の家族を、数年間も追い求めては泣き崩れていた。

その絶望を、どう描こう?
どう描けるというのだろう?


「わかった、わかったよ。外してあげる」


その代わり、と条件をつける。


「依茉が外出ていいのはアトリエだけ」


あの男たちとは会わないように、兄はそう言った。
…でも、アトリエに行けば隼人くんがいる。

何かしらの助けを呼べるかもしれない。

何かしら、救われるかもしれない。
< 198 / 201 >

この作品をシェア

pagetop