キミを描きたくて

「いつまでもここにいて」

「いつまでもここにいてくれればいいのに」

「...無理ですよ、閉店があるでしょう」

「ふふ、そういう意味じゃないよ」



ここにいてくれればいいのに。
その言葉の真意は考えないことにした。

答えがわかったわけではないが、わかったところで何も無いからだ。

隼人くんの輪郭をキャンバスに描く。
ずれてしまったその線を、指で擦って誤魔化す。

色を塗れば、変わらない。



「ねぇ、依茉ちゃん。依茉ちゃんは...何か欲しいものがあるとき、どうする?」

「欲しいものって?」

「そうだなぁ、お金じゃ買えないもの。友達とか、信頼とか......愛情とか」



お金では買えない友情、信頼関係、愛。
隼人くんはきっと、その三つを私が求めていることを知っている。

意地悪な質問だ。

答えに迷って口を閉じ、キャンバスにどんどん線を細かく描いていく。

色を塗ろうと思ったが、水彩ではなく別のものにしよう。

...隼人くんの顔は色をはっきりさせた方が、美しく映える。

油彩にしよう。次は絵の具を持ってこなくちゃ。




「...さ、もう閉店時間だから、キリのいいところで終わりにしようか」
< 27 / 177 >

この作品をシェア

pagetop