キミを描きたくて
家に帰宅すると、どっと疲れが押し寄せてきた。
疲れと共に溢れる涙にどうすることも出来ず、ただずるずると座り込むだけ。


今日は月が出ている。
まるい、まるい満月...

まるで、コンパスで円を描いて、空を切り取ったみたいな、そんな綺麗な満月。


満月は嫌いだ。

満月を見る度、一人を改めて実感する。


母に電話しようか、それとも父に、いや祖父に...

でも誰かに電話して、声を聞いて、慰められたところで一人は変わらない。


揺るぎない事実が、私の涙腺を崩壊させてばかりだ。


立ち上がれない。
涙で前が見えないし、床が涙で濡れていて、滑って転んでしまいそうだ。

それに、力が出ない。

体全体に力が入らず、ただ、座り込んで俯いて、嗚咽を響かせるだけ。


こういう時に、お兄ちゃんがいたら、きっと抱きしめてくれただろう。

お兄ちゃんが留学に行くことが決まったあの日の夜だって、お兄ちゃんは私を抱きしめてくれた。


でも、あの日からもう5年が経った。

...短期留学。
三ヶ月の、たった三ヶ月の短期留学のはずだった。


お兄ちゃんが帰ってくることは無かった。
三ヶ月ほど経って帰ってきたのは、お兄ちゃんの私物と、兄が行方不明だという母からの一本の連絡。
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