キミを描きたくて
それからさらに二年経って帰ってきたのは、兄が見つかったという報告と、記憶がないという報告。

...そして、母と父で話し合って、日本には帰国させずにパリで暮らすように指示したという報告。


私は何度も、両親に兄には会いに行くなと強く言われた。

でも、兄がいなければ、たった一人であるならば、この部屋はあまりにも広すぎる。


兄の私物は私が処分するか決めなさい、母は残酷にも私にそう言った。

未だに捨てられない。三年経った今も、決められない。


いつか、記憶を取り戻して、戻ってきてくれるのではないか。

いつか、私の絵を見て思い出してくれるんじゃないか。


相手が生きていると知っていて会えないより、死んで会えないと思い込む方がよっぽどいい。

孤独感は、人を殺せるほどの強さを持つ。


...もういっそ、この家で孤独死してしまおう。
きっと、きっとそうした方が幸せだ。

両親は、私と兄の私物の処理に困るだろう。


私が困ったように、あの人たちだって...



私の涙が枯れて、歩けるようになる頃には、もう満月は雲に隠れて、雨が降り出していた。
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