キミを描きたくて
ずっと、お兄ちゃん、兄さん、…樹は、私の絵を褒めてくれた。

どれだけ下手なデッサンでも、明暗のはっきりしない絵でも…彼はこれが世界一だと、ずっと褒めてくれた。

そんな彼の言葉に母親は納得しなかったが、父は寛大だった。

半ば、母の言動に呆れていた部分もあるのだろう。


「依茉。今日から、お兄ちゃんと二人暮らしだ」


どんな日もずっとふたりきりだ、そう笑顔を向ける彼に、私は小学生ながら憧れを抱いた。

年の離れた妹。きっと樹には、それ以外の認識は無かっただろう。

それでも、私にとっては、年の離れたお兄ちゃん以上の感情が、そこにはあった。


悦びでもない、愉しさでもない。
親と住めない淋しさでも、そんなものじゃない。


"家族愛"。
そう言えば、きっと聞こえがいいはずだ。
…でも、あの人はそうじゃなかったのかもしれない。
私を、私という家族を、記憶喪失なんて4文字で忘れてしまう程度だったのだ。

私だけ、いつも私だけだった。



「依茉の絵を、俺は早く大きな美術館で見たいよ」



そう笑う彼は、私の幼い記憶よりかは、黒い笑みに見えた。
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