キミを描きたくて
「なあ依茉、俺は将来素晴らしい作品を作りたいんだ」

「おにいちゃん、さくひんって、なあに?」


目の前に、お兄ちゃんと小さな私がいる。
なんで、なんでこんなものを見なければならないんだ。

そんな焦りを抱いても、映像は切り替わる。


「依茉、また絵描いてるの?もう…お兄ちゃんはあんなに立派だって言うのに、なんであなたは」

「まあまあ母さん。そんなこと言わなくていい。依茉が元気で生きていてくれれば、ボクは構わないから」


私を咎める母と、父の会話。
それを見せないように、兄が私を抱えて部屋に帰る。


「いいか、依茉。お前は俺の立派な妹だ」


もう少し待ってろ、自由にしてやるから。
そう言って微笑む彼は、まだまだ小さな私の頭を撫でる。

よく、私に似た顔だ。
写真を見る度に、思い出す顔だ。

ああ、あの日のお兄ちゃんなんだ…。



「父さん母さん。俺、一人暮らしする」

「ちょっと何言ってるの樹(イツキ)。高校から一人暮らしだなんて、なにがあるか」

「まあまあ、樹にも考えがあるんだろう。」

「…俺、依茉を連れてここを出たい」


絞り出したかのような声だった。
ああ、そうだ。
あの人はいつも私を、私だけを守ろうと、ずっと。


「もう俺見てられないよ、依茉が責められてるの。」

「俺、依茉の絵がどんな画家の作品よりも大好きなんだ」


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