キミを描きたくて
「そう、もう少し横を向いて…はい、その角度で」



体調は2日ほどかけて回復し、私はまたアトリエで絵を描いている。
隼人くんも、土曜日のことは無かったかのように連絡をしてくれた。


「ふふ、目が輝いてるよ、依茉ちゃん」

「あと少し、あと少しで…」


夏休み前には全て完成させたい。
文化祭は夏休み明けの9月末。
できれば、夏休みにももう1枚何か描きたい。

…夏が終われば秋が来る。
でもそんな秋も一瞬で過ぎていく。

すぐに冬が来て、春が来る。
また、あの人を待ち続けるんだ。


「そんな依茉ちゃんが好きだよ」

「……よし」

「届かないのも、全部わかってるよ」


アトリエの風景も描く。
窓辺にある観葉植物、乱雑に並んだ私の画材。

ぼやけた背景に、ハッキリとした隼人くんの顔。

凛々しく、けどどこかまだ幼さの残る、そんな顔。
少し襟足の伸びた黒髪のマッシュヘアに、耳に光るピアス。

全て完璧に、写真かという絵を。
私の中の、全ての色を。


「_____って、聞いてないか」



そう言われてハッと顔を上げる。
困ったような隼人くん。

ああ、いつしか、私はそんな顔も描いてみたい。
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