キミを描きたくて
「ご、ごめんなさい…夢中になってて」

「わかってるよ。凄く顔がキラキラしてた」

「もうすぐ、もうすぐ終わる…あとは窓の外の雲」


今日は清々しいほどの晴れ。
時刻は18時、夕日が差し込む。

やはり、人物を描くのも楽しい。

私の楽しみは絵しかないのだと、尚更痛感する。




「……よし、できた」

「本当?見せて見せて」

「どうかな…人物画なんてあんまり描かないから、上手くいった方だとは思うけど」

「すごい…よく描けてるよ。ばっちり、ピアスまで完璧だね」


絵の中の隼人くんと、実物を見比べる。
…うん、私の中では完璧なつもりだ。


「これ…文化祭に飾るんだっけ」

「そうです。あとは教室の風景と、抽象画を飾る予定です」

「…そっか。見に行くよ、文化祭。たしか出入り自由だよね?」


日時分かったら教えてね、そう告げて、いつの間にか空になった私のコーヒーマグを片手に部屋を出ていく。


「…全部聞こえてたよ、何もかも。」


そんな言葉は虚空に消える。
それでいい、私は何も知らなくていい。

彼の想いも、私の想いも。
何も知らずに、真っ白なキャンバスでいるべきなのだ。


「私は…_____」
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