愛は愛より愛し

文字盤に見えたRから始まるそのメーカー名に、口元が引き攣る。確かに、学生で持っていると考えれば、

「どこの会社? 携帯と煙草と身ひとつってことはこの辺ですよね」
「……あの」
「あ、申し遅れました。私、セナと言います」

握る反対の手でパタパタとポケットに触れるが、目的のものが無かったらしい。男はその手を、私の手に添えた。

「すみません、生憎名刺を切らしてまして」

心底残念そうに言われ、苦笑いを返す。

「閑野です」

とりあえず名前を答えると、セナはぶんぶんと手を二度振ったが、振り切れることはなく。

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