愛は愛より愛し

世名は腕時計を確認することなく「大丈夫大丈夫」と言った。その高級時計は飾り物か。

「そう、なら良いけど」
「あ! 良かったら、閑野さんも来る? 妹さんたちも呼んで。ご飯は美味しいと思うよ」
「美味しいと思うって……遠慮するに決まってるでしょ。赤の他人なのに」
「えっ、僕と閑野さんは親友くらいの友人だよね?」
「いつからそうなったのか教えてほしい」

ケラケラと笑う世名。電車に共に乗り込み、つり革を掴んだ。

「今日でいくつになるの?」
「いくつって歳でもないけどね」
「十分若いでしょ」

霙と殆ど変わらないように見える。何なら恭子とも。

「29になりました」

……え。

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