【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~

3.誕生日のお祝いに



 朝早い時間にファンファーレの音が響き、聖女降誕祭が始まった。

 街中に食べ物の屋台が並び、いい匂いをさせている。あちこちに立った物売りの市も眺めているとおもしろい。
 中心部の広場には舞台が作られていて、音楽隊がにぎやかな曲を奏でる。昼には大道芸の一座が芸を披露するらしい。

「いらっしゃい! 聖女降誕祭の記念に焼き菓子はどうだい? 聖女様もお好きだった菓子だよ!」
「本当かい? じゃあ、試しに一つもらおうか」
「試しになんて言わず、家族や仲間の土産にどーんと買っておくれよ。負けておくよ」
「はは、ここの連中は商売上手だな」

 聖女の生まれ故郷として有名になったこの街に、国中からたくさんの人が訪れていた。
 聖女という存在がいなくなって女神の加護が消えても、人々はたくましく生きている。わたしが食べたこともないお菓子を売って。
 わたしは思わず笑ってしまったけれど、その様子にほっとしてもいた。不安定な暮らしからがんばって這いあがっていこうとするこの国の民が誇らしく思えた。
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