【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
「マリアーナ、本当に行くのか?」
「ええ」
「無理していないか……?」

 わたしはヴォルフに微笑んでうなずいた。ヴォルフの腕の中できょろきょろしているグラウとナハトの頬を撫でる。

「大丈夫よ。陰から少し見るだけだから」

 にぎわう大通りから裏路地へ、わたしはヴォルフの前に立って歩いていく。二十年近く暮らした街だ。久しぶりとはいえ迷いはない。

 旧市街のはずれ、二階建ての石造りの建物が連なる一角にあるその店は、それほど大きくはない老舗の仕立て屋だ。それは、わたしの実家――今は両親と、跡継ぎにするためにもらった養子が住む店舗兼用の住宅だった。





 店先では、わたしよりもいくつか若いだろう男の子が祭りにも加わらずに一生懸命掃除をしている。
 両親の姿は見えない。街の噂によると、姉娘が真の聖女だと気づかずないがしろにしていた両親は肩身の狭い暮らしをしているらしい。
 いくら妹のモーリーンの肩ばかり持ってわたしを見てくれなかったとはいえ、まだほんの小さなころは父さんも母さんも優しかったのだ。どうしているのか、少しだけ気になった。
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