【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
「十分長生きしたんだよ。子供たちは大きくなったし、かわいい孫もひ孫もいる」

 絵筆を操る手もしわだらけで、腰が曲がり、背もずいぶん低くなった気がする。

「妻も何年か前に看取ったし、やり残したことはない」

 のんびりした笑顔はそのままだけれど、おじさんはいつの間にか、おじいさんになっていた。

「幸せな人生だったよ」
「おじさん……」
「それにあの日、おまえさんたちに出会えてよかった。絵描きとして、最高の仕事をさせてもらったよ」

 彼は、ふっとおもしろがるように笑った。

「本物の聖女の肖像画を描いたのは、世界広しといえども俺だけだろう。女神レクトマリアに感謝を」
「え?」

 返す言葉が見つからなかった。
 その時、にぎやかな笑い声を響かせて、ヴォルフと、二十代の青年の見かけになった子供たちが戻ってきた。
 おそらくそろそろ、彼らの成長は止まるだろう。

 変わっていくもの。
 変わらないもの。

「おじさん」
「なんだい?」
「おじさんに描いてもらった絵は、ずっとわたしたちの宝物よ」

 空になったおじさんのカップにお茶をつぐ。
 おじさんはわたしたち家族を順番に見つめて、くしゃっと笑った。

「ああ。ありがとう」
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