【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
「聖女様、大丈夫でしょうか。緊張しておられますか?」
「はい……、申し訳ありません」

 ささやき声で気遣ってくれる神殿長に、小さくうなずく。

「……ふぅ……」

 なんとか気持ちを落ち着けなければ。

 ……わたしを癒してくれるもの。
 聖女ではない、ありのままのわたしだけを見つめてくれた、金の瞳……。

 頭の中に、あの銀色の狼を思い描いた。

 時が止まったような静かな夜。
 夜の闇を照らす、白い月の光。
 そっと寄り添う体温。

 ヴォルフ。
 お願い、ヴォルフ。
 わたしをここから連れ去ってほしい……。
 今すぐに。

 ……でも。
 それはできない。
 たとえヴォルフがあの不思議な力を使って迎えに来てくれたとしても、わたしは彼と行くことはできない。

 わたしが逃げてしまったら、父さんや母さんはどうなるの?
 街の人達やこの国に住む人々の生活は?

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