【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 作物を育てるお日様に大地を潤す雨、豊かな実りに喜ぶ人々の笑顔に、たくさんの子供達が上げる歓声。

 わたしに女神の加護はないけれど、仮初の聖女すらいなくなってしまったら、穏やかな暮らしどころか希望さえ失われてしまうかもしれない……。

 わたしは身代わりの聖女。
 すべてが偽りであっても、もう前に進むしかなかった。





 * * * * *





「聖女モーリーン、こちらに」

 いつもにこにことした気のいいおじいさんにしか見えなかった神殿長が、大広間の中央に設けられた演壇の上から重々しくわたしを呼んだ。

「女神レクトマリアに祈りを」

 聖女継承の儀。
 国王陛下や国の重鎮達の前で、女神様に新たな聖女だと認めていただく儀式なのだということだった。
 すでに東方神殿で聖女選定の儀をすませているので、今回は形だけだとも言われている。

「愛と豊穣の女神レクトマリアよ」

 わたしはできるだけ声を張って、女神様に祈りを捧げる。

「わたくしは聖女モーリーン。女神の加護を賜り、その御心を申し伝える者。あなたを愛し敬う民に、偉大なる女神の恩恵を与えたまえ」

 祈りを捧げてから、聖なる水晶の前にそろそろと手を差し出す。

「…………」

 もう少しで、水晶にわたしの指先の影がさす――その時だった。

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