今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~
それ以上は言わず、あたしも訊かない。さっきの男に売り渡されなかった。その事実だけで充分だった。
  
「ちょっと待ってろ」

やがて革張りのソファに降ろされ、目隠しを外さずに時雨はまたいなくなる。あたしはそのままで、ぼんやり反芻する。

あの男。依頼者の口ぶりだったのに。どうしてか叶が消した。・・・コロシタ。

どこか現実味がないのは、見ていないから?

叶は人形(あたし)の話を持ちかけただけ。ほかは何も聴いていない。第三者に問われても、何も“知らない”。

つまり。二人は最初からあたしを共犯にするつもりがなかった。大きく息を吐く。
 
『ただいればいい』の意味も、目隠しも。
優しさだけど寂しい。

そう思うあたしは浅はかなのか。
・・・愛って呼べばいいのか。
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