それはきっと、甘い罠。
「藍野ちゃん?」
「どひゃ!?」
なっちゃんを見ていたせいで気づかなかった。
いつの間にか席から立ち上がった鞍馬君が私と目線を合わせるよう屈んでいる。
近すぎる距離に、緊張と焦りと異性という意識に心臓の音は限界を迎え始める。
「あはは、なんだよ『どひゃ』って。色気ねーの。
まあそこが藍野ちゃんの可愛いところなんだけどさ」
「くっ、鞍馬くん!?
席替えっていっても授業中なんだから、席に着いた方が……」
「えー?
だって藍野ちゃん照島のことばっか見つめてるからさー。
つまんねーじゃん?意地でも俺の事視界に入れてやる」
もう十分だよ。
これ以上鞍馬君が視界に入ったら、キラキラパワーで私死んじゃうよ。
「でも席つかなきゃ!」
「わっ」
焦りすぎたせいか、鞍馬君を席に着かせるため
無理矢理肩を押してイスに体を戻させる。
触れてしまった鞍馬君の肩は硬く、女の子みたいに肌が柔らかくなくて。
無意識とはいえ、触ってしまったことに顔が熱くなる。
「あっ……ごめっ」
触れた手を引っ込めようとした瞬間。
鞍馬君の手が、私の手首を掴んだ。
「肩に触れただけで、そんな顔赤くすんなって。」
「……っ」
「こっちが悪いことしてるみたいじゃん?
初だな~、藍野ちゃんは」