「槙野だったら、何味にする?」
「知らなかった?ヤヨちゃんから聞いてると思ってた。」

「聞いてない。」

僕は本当にヤヨちゃんが喋ってると思っていたから正直驚いた。

「嫉妬した?」

「何に?」

「僕とヤヨちゃんが二人でお泊まりしたこと。」

涼太は頭を掻く仕草をして、そのまま動きを止めてから、電池切れのロボットみたいに右腕をストン、と膝の上に落とした。深く、長い溜め息をついてから、涼太は僕に言った。

「馬鹿だな、お前。」

「そうかもね。」

ドリルに走らせていたシャーペンを、僕は離した。十ページも進んでいない。氷が完全に溶けてしまって、グラスの下に小さく水溜りが出来ている。涼太のグラスの下も同じだった。そのまま持ち上げて麦茶を一口飲んだ。ぬるかった。ポタポタっと水滴がハーフパンツに落ちて斑模様を作る。

「俺は誰に嫉妬すればいいの。」

涼太の声がいつもより低くなる。

「誰にって?」

僕の声もいつもよりかすれてる。

「槙野とヤヨ、どっちに嫉妬すればいい。」

「どっちって、そんなの…」

苦笑いのような、含み笑いのような口調になってしまう。今の言い方、ちょっと嫌な感じだったかなって自分でも思った。涼太を見た。僕をジッと見ている。涼太の目がキラッと光っているように見えた。僕の瞳はきっと揺れている。僕を見透かすような、試すような、僕の苦手な涼太の目だ。

涼太は結局僕の返事は待たないで、「タイムオーバー、残念でした。」と言って、ドリルを鞄にしまって、僕の部屋を出た。蝉の声がうるさい。開いたままの僕のドリルのページが冷房の風に揺れている。

僕の何が、間違っていたんだろう。
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