Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「俺が平石さんのことを気遣うのは、そんなにおかしいこと?」
「……え。でも……わたしたち、関わりなかったし……」
「そうだね。俺が一方的に知ってただけだもんな、イブキの幼なじみの子だって」
あの本条怜也くんが、わたしのことを認識していた。
その事実だけで、ものすごい衝撃だ。
「わたしも……本条くんのことは、もちろん知ってた、けど」
「へえ。それはすごく、嬉しいね」
「……え……」
「もっとはやく、話しかければよかったな」
ギシ……とベッドが音を立てた。
本条くんが、ベッドの端に腰をかけたからだ。
「だってさ。ずっと、遠くから眺めるだけだったから」
わたしのすぐそばに片手をついて、身を寄せてくる。
縮まった距離に、せっかく落ち着いた頭が、真っ白になる。
「今こうして平石さんに近づけて、俺……すげー嬉しいの」
「……あの、本条く」
「だからさ」
甘ったるい囁きに、鼓膜が震えてぞくぞくする。
「これからは平石さんのこと……俺に守らせて?」
大きな手のひらが、わたしの後頭部に回って。
ゆっくりと押し倒され、背中が柔らかくベッドに沈んだ。
わたしを閉じ込めるように両手をつく本条くんに、息が詰まるほど驚いた。
言葉が出てこない。
固まっている隙に、鎖骨の部分につう──、と触れられて。
「ひぁ……」
震えた声がわたしの口から飛び出したところで、……襟元がまだ、はだけたままなのを思い出した。
あとひとつでもボタンを外したら──。
「あ……や、待って……っ」