Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「待つだけでいーの?」
くすくす、と笑声が降ってきて、恥ずかしさでぶわりと体が熱くなる。
「は、離れてほしい……」
「言葉だけじゃだめだよ。もっと、俺の体を押し返すとかしないと」
「……あ、そう、だよね……」
言われた通りに、わたしは両手を本条くんの肩に当てる。
「力、弱いね。これで精一杯?」
「う……だって……。震えて、力入らない……」
「そっか……怖い?」
わたしを気遣うような問いかけ。
さっきまでのからかうような声色とはがらりと変わって、優しいものだった。
だから、なのか。
「違、うの……どきどき、しちゃって」
火照りきった頬に降参して、わたしは正直に白状してしまった。
本条くんは僅かに目を丸めてから……。
くはっ、と弾けるように笑う。
「なにそれ。随分と可愛いこと言うね、平石さん」
「えっ? あっ、なんか、変なこと言ったよね、ごめん……」
「いや。別にいいけどさ」
本条くんはそのまま、ひとしきりくつくつと肩を揺らして。
落ち着くと、満足したようにあっけなく離れた。
視界から本条くんが消えて、代わりに天井がいっぱいに広がる。
……あれ?
「でもよかった。パニックとかにならなくて。男が怖くなったりはしてないみたいだね」
「……そ、そうみたい……?」
「それにしても。……もう少し拒否られると思ったから、びっくりした」