Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-






悔しいけれど、このときのわたしにとって、本条くんの存在はものすごく助けになってくれた。


目を覚ましたときにひとりきりだったら、また違ったかもしれない。

立ち直れずに、トラウマになっていたかもしれない。


だけど、きっと同級生として身近な存在である本条くんと話している内に、安心して、へっちゃらだと思えるようになったんだ。

ちょっとしたトラブルに巻き込まれた、という程度に思えるようになったんだ。


だからわたしは、本当のことを人に知られるのが嫌で、学校に対して、詳しい事情を伏せてもらうことを選んだ。

腫れ物扱いなんて、されたくなったから。

自転車で下校中、後ろから不審者の自転車にぶつかられ、衝撃に耐えきれず転げ落ちて怪我をした──そんな事故にあった、ということにしてもらったんだ。


3日だけ学校を休んで、肩の痛みがマシになったから、なんでもないことのように学校に復帰した。

1週間も経てば、本条家のご厚意を断って、ひとりで登下校するようになった。


ただ、あれ以来自転車の行方がわからなくなって、電車通学になっちゃったけれど。

同時にあの裏路地近くを通らなくて済むようにもなったから、結果オーライだ。

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