Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「また、遠慮してそうな顔してる」
「……うん……」
「いいんだよ。今の平石さんは、これくらい丁寧に扱われるべきなんだって。自分のこと、ちゃんと労わってやって」
「……」
「……泣くなよ」
「……ご、ごめん……」
「泣かれると、……俺も困る、っていうか」
……そうだよね。
わかってる。
泣いたって、過ぎたことがどうにかなるわけじゃない。
……ただ、……。
本条くんの優しさが、わたしの弱いところに沁みて──、
「泣き顔見ると、──もっと、いじめたくなるからさ」
「……」
聞こえたとんでもないセリフに、わたしは非難の眼差しを向ける。
その先には、……憎たらしいほどに美しい、得意げな笑みが待ち構えていて。
おでこに、いつだったかクラスの男の子が口にしていた“帝王”の二文字が、見えた気がした。