Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



「別に謝ることじゃねぇよ」



彼はスマホに視線を落とし、なにかを打ちながらさらりと言った。


……誰かと連絡をとっているみたいだ。

隠れて様子を見ていたことなんてすっかり忘れて、その伏し目がちの横顔をぼうっと眺めていると、



「その制服、聡学だろ」



彼がぱっと顔を上げた。


目が合って、反射的に視線を逸らしてしまう。



……しまった……。

またやっちゃった。

そろそろ慣れようよ……、わたし。


どこからどう見ても彼を意識してます、という自分の態度に、頭を抱えたくなる。



「……はい……。そうです」

「あの男もそれには気づいてるだろーな。……もしくは、聡学の生徒だからって理由だったかもしれねぇ」



わたしの不自然な態度なんてちっとも気にしていないように、彼は続けた。





聡学──正式には、聡架(そうか)学院高等学校。

わたしの通っている学校の名前で、……このあたりではそこそこ有名、だったりする。

例えば、偏差値がすごく高いとか、制服が特別可愛いとか……そういうことではなくて。


──十数年前に西区と東区が合併されたことをきっかけに、元々区分けされていたが故の揉めごとが多い中央区は、治安があまりよくないと言われている。

そんな中央区にある学校の中でも、ここ数年、聡架学院は他校の生徒との問題ごとがほとんど起こらず。

安心して通わせられる、と保護者からの評判が高くなったことが、知名度のある大きな理由になっているんだ。

< 9 / 182 >

この作品をシェア

pagetop