Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
まあ、その他にも、治安のよろしくない中央区に相応しいような、ちょっとした噂というのが……あるのだけれど。
「あんた、彼氏は?」
「……へっ、?」
と、突然、なにっ?
どうして、今、そんな質問……?
咄嗟に意図を探ろうとする頭とは裏腹に、
「い、いません……っけど」
正直な答えが、口をついて出ていた。
「そか」
流し目でそうこぼした彼の声色には、なにか含みがありそうに思えた……ものの。
「んじゃ、明日から帰りに付き添ってもらうよう頼める男、いる? 友達とか」
「あ……」
……なんだ……。
そういう、こと……。
いったいなにを期待していたのか、身体の内側でシワシワと得体の知れないなにかが、しぼんでいく気配がした。
おとこともだち、という言葉とは縁遠いような、わたしの高校生活。
だけど──。
『なにかあったら、すぐに言って。……些細なことでもね』
耳の奥に響いた声と同時に、頭の中に浮かぶ、身近と言われればそうかもしれない存在の男の子。