【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 高い少年の声が甘くささやく。

「愛しています、アーリア。僕の言葉も覚えていますよね?」

「な……!?」

 驚きに硬直したわたしが叫ぶより前に、セドリックの背後から女性の鋭い声が上がった。

「殿下、嫁入り前の娘に何をなさいますの」

 お母様だ。
 いつも微笑んでいる美しい貴婦人である母が、怖い表情でセドリックの首筋をつかんだ。まるで猫の子みたい。

「伯爵夫人、少しくらいは許してくれませんか」

「いくら殿下が娘に求婚してくださったと言っても、まだ婚約は成っておりません。お慎みください」

 セドリックはお母様にどこかに連れていかれ、わたしはようやくひと息吐いた。

 今日は一日、部屋に引きこもろう。
 前世の記憶はわたしの中だけのことだから置いておくとしても、第二王子に婚約破棄されて、第三王子に求婚されて、おまけに玄関先で倒れたのだ。

 今日くらいはゆっくりしても、お父様もお母様も怒るまい。





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