【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「殿下……。なぜそんなにわたくしのことを?」

 ぎゅっとわたしの手を握りしめて、少し遠い目をする。

「アーリアは覚えていないかもしれないけれど、初めて会った時、僕は庭園で迷子になっていたの。心細くて泣きそうになっているところに、あなたが現れた」

「覚えておりますわ。わたくしはヒューバート殿下との顔合わせのお茶会の前に、緊張をほぐそうと薔薇園を散策していたのです。その時、薔薇の妖精に出会ったのかと思いました」

 ほんとに可愛かったなぁ。ちっちゃくて綺麗な男の子が、泣きそうな顔で薔薇のアーチの下にたたずんで。
 手を差しのべずにはいられないでしょう。

「僕こそ女神が現れたのかと思った。それからあなたに会うたびに胸が高鳴るようになって……明るい笑顔や優しい声が慕わしくてたまらなくなりました」

「え、でも殿下はまだお子様でしたでしょう」

「子供でも男ですよ」

 大人びた顔で苦笑するセドリック。もうそんな表情をするようになったのね。

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