【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています

 じっと手を見る。透けるように白く、傷一つない細い指。

 頭の中に、今の自分の容姿が思い浮かぶ。
 つやつやとした銀の髪、濃い紫色の瞳の華やかな顔立ちは美女と言ってもいいだろう。

 やった、ラッキー。今回は勝ち組人生送れる! なーんて浮かれたりはしない。
 このシチュエーション、やっぱりわたしの役柄は悪役令嬢で決まりだよね。

 タイトルもストーリーも思い出せないけれど、定番どおりなら断罪された悪役令嬢には修道院送りとか国外追放とか、過酷な運命が待ち受けているはず。まさか処刑はされないと思うけど。

 監禁も追放もいやだ。苦しい目に遭うくらいなら、いっそ平民落ちしてもいいから平凡に生きたいぞ、わたしは。

 ここは逃げの一手しかない。

「アーリア、申し開きすらできないようだな」

「……申し訳ございません、ヒューバート様。突然のことで言葉を失っておりました」

「ほう、突然か。どれほどのことをしてきたか、身に覚えがないとでも言うか」

「いえ、立場によって言動の受けとめられ方が異なることは存じております。わたくしがエマさんのためと思って申し上げたことも、エマさんにとってはおつらいことだったのでしょう。しかし、わたくしは」

「この期に及んで抗弁するのか。見苦しいぞ、アーリア! おまえはいつも……」

 みんなの前でわたしを責めるヒューバートの言葉を半ばさえぎり、急いで言う。

「そうではございません、ヒューバート様、いえ、ヒューバート殿下。わたくし、アーリア・クラークルイスは殿下のご命令を謹んでお受けいたします」

「は……?」
< 3 / 113 >

この作品をシェア

pagetop