【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています

「婚約の解消に異議はございません。必要ならば、この場で婚約契約破棄の合意書に署名いたします。わたくしは成人ですので、わたくしの署名だけでも効力があるはずです」

 そもそも学生であるエマとの接点はほとんどない。
 だが、確かにお茶会や夜会でヒューバートに馴れ馴れしく接していたのを注意したことはある。そこまで言われるようなことをした覚えはないけど……。

 とりあえずなんとかこのルートから離れねばと、言いたいことを言い終えると、ヒューバートもエマも周囲の側近たちもぽかんとした顔をしていた。

「ヒューバート殿下?」

 呼びかけると、はっと自分を取り戻したヒューバートは周囲を見まわす。
 そばにいた文官が小さく首を振るのを見ると、「今は書類の用意がない。即刻作成して伯爵家に届けさせるゆえ、すぐに署名をするように!」とわたしに命じた。

「かしこまりました。それでは、屋敷にてお待ちしております。今宵はこれにて御前を失礼いたします」

 そそくさとパーティー会場を出て、家に向かった。





 あの場での処断は免れたものの、鳴り物入りの婚約が結婚寸前で破談。
 お父様に怒られるな、こりゃ。

 でも、まあ娘には甘いお父様だ。領地に謹慎する程度のおとがめですむだろう。
 すむ、よね……?


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