【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「セドリック、悪い子ね。ヒューバートの目を盗んで、わたくしと会いたいだなんて」

「違うのです、エマニュエル」

「あら、何が違うの? 言い訳なんて聞きたくないわ。素直になったら、わたくしがいいことをして差し上げてよ」

 緑の濃い茂みの間から東屋をのぞくと、エマが細身の少年にしなだれかかっていた。

「いいこと?」

「うふふ、可愛いセドリック。お兄様のお下がりの婚約者を押しつけられた、可哀想な王子様」

 エマは慈母のような優しい表情で、セドリックの肩を押さえ、艶のある唇を近づける。

「やめ……何をするのっ?」

「怖がらなくてもいいのよ」

 セドリックは顔をそらすと、大きな声で叫んだ。

「やめて……助けて、兄上!!」

「……あにうえ?」

 わたしのいる茂みとは別の陰から、ガサガサと音がした。



「――セドリック!」



 飛び出してきたのはエマの婚約者、第二王子であるヒューバートだった。

 わたしの元婚約者でもある。久しぶりに彼を見たが、相変わらず美形だ。だからといって、やはり何も感じないけれど。

「エマ……?」

 ヒューバートの金の髪は風に流れ、青い瞳が動揺を表すようにゆらゆらと揺らめいていた。

「エマ……なぜ、ここに? どうしてセドリックと……?」

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