【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「わたし……やっぱり、あなたにふさわしくないのかな」

「そんなことはない。君は私の正式な婚約者だ」

 基本的にヒューバートは、単純で正義感の強い男だ。エマの言葉を即座に否定すると、その細い肩を抱き寄せた。

「……先日、アーリア様とすれ違った時に、偶然セドリックが通りかかって。わたしが嫌味を言われているのを助けてくれたの」

「そうか、アーリアはまだそんなことを……」

 ヒューバートはエマを抱きしめる。
 潤んだ瞳のまま、エマは彼を見上げた。

「ヒューバート、愛してるわ」

「……エマ」

 おそらくヒューバートは幾分疑いながらも、エマの恋情を信じたいのだろう。エマに優しくキスをした。
 エマだけを肯定し、ほかの可能性をすべて否定するほど、ヒューバートが愚かだとはさすがに思えない。

 ……いや。うーん?

 次の瞬間、思い直す。
 どうかな? そう言えば、わたしの言い分は何も聞かずに断罪した人だった。



 綺麗に筋肉の付いた長身の背中の影で、たおやかで可憐なヒロインがふてぶてしく笑ったのが見えた気がした。


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