【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「母上……王妃殿下、寛大な計らいを感謝いたします。力の限り、名誉ある職務を果たします」

 ヒューバートは深く頭を垂れた。
 エマはまだ信じられないようで、ヒューバートにつかみかかる。

「ヒューバート、嘘でしょ!? わたし、田舎なんて嫌よ」

 ヒューバートが反応しないことを知ると、エマはセドリックに向き直って、ひときわ愛らしく笑いかけた。
 ヒロインのイメージそのものの、誰もに愛されるような明るく純粋な笑顔だった。

「ねえ、セドリック。あなたは、わたくしを助けてくださるわよね。わたくしのこと、好きだったでしょう? わたくし、これからはあなたと……」

「連れてお行きなさい」

 王妃殿下の下知が、エマの媚びた声をさえぎった。ヒューバートが叫ぶエマを軽く拘束し、否応なく応接室を退出していった。





 なんだかヒューバートがさらに哀れになって、さすがに手放しでざまぁみろとは思えなかった。
 けれど、二人には二人の、また違った形の幸せがあるのかもしれない。

 グッドラック。

 わたしは人差し指と中指をクロスさせる前世の仕草で、ヒロインと元婚約者を見送った。おそらく個人的に会うことはもうないだろう……。

 セドリックは不思議そうにわたしを見ていたが、わたしは何も応えなかった。少しくらい謎があるほうが、きっと飽きずにいてくれるに違いない。


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