【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 結婚披露の夜会ののち、口さがない世間のゴシップはぴたりと止んだ。

 代わりに、年上の妻を溺愛する第三王子が、妻にふさわしくあるため高等学園で優秀な成績を収めたと、まことしやかに噂されるようになった。

 将来有望な王子にあやかろうと、子弟を年上の女性と婚約させることが流行ったりもしたらしい……。

 まあ、婚期を逃した女性たちが幸せをつかむきっかけになったのなら、決まりの悪い想いをした甲斐もあったというものだ。たぶん。

 時折あの一年前のプロポーズが脳裏によみがえる。

『僕なら兄上のように不実なことはしません。あなただけを愛し、一生守り抜くことを誓います。アーリア、僕と結婚していただけませんか』

 真剣な顔でわたしの前にひざまずくセドリック。

 今より背が低くて、声もボーイソプラノで。幼いけれど、誰よりも真摯にわたしを想ってくれていた。
 一度は婚約者から裏切られたわたしだけれど、セドリックの言葉は嘘ではないと信じられた。

 わたしはずいぶん年の離れた彼に対して、恋愛感情なんて抱けないと思っていた。それがいつの間にか、天使のような美しい少年は世界の誰よりも愛しい人になったのだ。

 信じられない幸運に改めて驚く。

 国外追放される悪役令嬢だったはずのわたしが、こんなに幸せになれるなんて、と。



 ……でも。
 でもね。



 どんな可愛い上目遣いでおねだりされても、わたしはこれ以上ほだされませんからね。
 十歳年下の旦那様…… !!




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