【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
SS 薔薇園の妖精
※アーリア覚醒前、前世の記憶がまだよみがえっていないころのSSです(2ページ)。


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 わたくしには決められた婚約者がいる。
 そして、譲ってはならない自尊心がある。

 彼にふさわしい、最高の貴婦人であること――それがわたくしの自尊心。

 たとえ心の鎧の奥底で、大きな声で笑おうと、悔しいことに泣きわめこうと、表情は雅に優しげに。言葉は上品に控えめに。

 貴婦人の仮面をかぶりつづけることは、伯爵令嬢に生まれ、第二王子の婚約者となったわたくしの使命だと思っていた。

 けれど、虚弱だった少女時代、療養のために緑豊かな田舎の領地で過ごしたせいか、わたくしはのんびりした娘に育ってしまったらしい。一人前のレディーとして扱われる年になっても、貴婦人の仮面を被ることは予想以上に苦痛だった……。





 気合いを入れ、強固で優雅な仮面をかぶり直して、わたくしは王宮に伺候した。

 その日は、第二王子との正式な婚約前の顔合わせのお茶会。けれど、緊張感がせり上がってきて、どうにも前に進めない。
 早めの時間に来たこともあり、少し時間があったため、わたくしは王宮の薔薇園におもむいた。

 そこには――可愛らしい妖精がいた……。

 いや、もちろん本物の妖精ではない。綺麗な顔をした小さな男の子である。

 庭師の手入れが行き届いた美しい薔薇園にふさわしい、純粋であどけない、汚れなき天使。
 咲き誇る薔薇のアーチの下、うっすら涙をうかべたセドリックとの初めての出逢いだった。

「あなたは……妖精? それとも女神の御使い様かしら」

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