【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「アーリア、行こうか」

「セドリック様……ありがとうございます。エドワード様、わたくし、こちらの卒業生ですから、そんなに気を遣っていただかなくても大丈夫でしてよ?」

「そうでしたね。では、まいりましょう」

 エドワードは一瞬おもしろがっているような笑みを浮かべてわたしを見つめ、扉を開けて歩き出した。





 若者たちが集まったホールのざわめきがなんとなく懐かしい。

 わたしはホールの正面に設けられた演壇から、たくさんの生徒たちに挨拶をした。

 セドリックもその中にいる。セドリックはホールまでわたしをエスコートすると、自分のクラスの列に並びに行った。

「……それでは、みなさんが学業や鍛錬に励み、我が国の将来を担う人材となっていただける日を楽しみにしております」

 わたしが話し終えると、拍手と、軽い指笛の音がした。

「静粛に!」

 ホールの端に控えていた教師たちの中から、エドワードが声を張っていさめる。

 だけど、わたしが通っていたころから、学園には貴族社会とは少し異なる独特の自治と自由があり、このくらいなら別に罰せられるほどの無礼ではない。若者の悪ふざけで許される範囲なのだ。

 指笛を吹いた男子生徒に目をやって微笑むと、なぜか彼は真っ赤になってうつむいた。
 あら、とがめたつもりはないのに、誤解されちゃったかしら?


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