聖女じゃないと見捨てておいて今さら助けてとか無理なので、どうぞ放っておいてください!
◆ 森の聖獣 フェンリル                               

 もう長くない。聖獣であるフェンリル、デルは思った。
 三百年前。本来闇を浄化し光の魔力を放つはずの『起源の宝珠』が突如闇の魔力を放ち始め、聖獣の森を闇に染めていった。

 それにより、森の動物たちはモンスターと化した。
 強い力を持つと言われる聖獣たちはすぐに影響を受けることはなかったが、三百年という長い年月の間に侵食され、一匹、また一匹とモンスターになっていったのだ。

 そしてデルもまた、闇にのまれモンスターに変わり果てようとしていた。この三百年、何度も宝珠の闇を払おうと、さまざまな試行錯誤を繰り返した。

 けれど闇に染まった宝珠は光を放つことはなく、その地に生える木々や聖獣たちを闇属性のモンスターへと変貌させてしまったのだ。

 森を守る聖獣がゆえ、森を出るという選択肢は彼にはなかった。
 ──いや、今思えば外で手がかりを探そうという思考回路までも闇に冒され鈍ってしまったのかもしれない。まったくそのような発想が浮かばなかったのだ。
 薄れゆく意識の中で、デルはこれまでのことを振り返っていると、ふと奇妙な魔力を感じた。

 魔力に引きつけられ、たどり着いた場所には、人間の男と女がいた。男は気を失っているようだが、女は意識があるようでこちらを見ている。

 魔の森に人間が来るなど、何百年ぶりだろう?

『起源の宝珠』が闇の魔力を放つようになってから、人間は森には来なくなっていたのに。

(ああ、殺して貪り食いたい)

 デルは思い、よだれを垂らした。そして気づく、自分の思考がモンスター化していると。

(どうやら我も、もう長くないようだ)

 自分とともに無事だった兄弟たちは、せめて闇にのまれず無事にいてくれるといいのだが、この森にいる限り、その願いは届かないだろう。

 恐らく弟のベガもアルもそう遠くない未来にモンスター化してしまう、もしくはもうなっているかもしれない。
 一度完璧にモンスター化してしまえばもう二度と戻れない。

 デルの意識が薄れゆく中、目の前の人間の女がステータス画面を開くのを見ていた。
 そして次の瞬間、目の前の女は叫ぶ──『指定』と。

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