ときめきの香りは貴方ですか?
優也さんは私の顔を見ずに、パソコンに向かって仕事を続けていた。
「失礼しました」
私は一礼して、制作部を出て行った。

泣きそうだった。
愛することを知らない時は、どうも思わなかった。

でも、私情を挟んじゃいけないと分かっていても不安になる。

その次の日、中間さんと廊下で会って
「風谷さん、ここの英文だけど、どぉ?こんな感じで」
「あぁ、そうですね・・・」

2人で話をしていると、優也さんが横を通って、
「中間さん、ちょっといいですか。次のうち合わせのことなんですけど」
私には目もくれず、中間さんと優也さんは会議室へと入っていった。

寂しいけど、金曜日には泊まりにいける。
そう思うと何とか我慢できる。

明後日の夜までの辛抱だ。
それより、今日のうちにあの仕事終わらさないと・・・

すっかり遅くなり、制作部の電気も消えていた。
優也さんは、定時になったら直ぐに帰ったらしい。

「永富さん、お先に失礼します」
「あぁ、ごめんね、遅くなって。お疲れ様。帰り気をつけてね」
「はい!」

私は外に出て、空を見上げ、大きく息を吐いた。

「愛里」
声の方を見ると、優也さんが立っていた。

「どうして・・・定時で帰ったんじゃ・・・」
「待ってたんだよ。ちょっと家に来て」

優也さんとタクシーに乗り込み、優也さんの家へ向かった。

優也さんは黙って、前を向いている。
怖い、もしかしてもう嫌いになったとか・・・
私、何かした?
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