甘い毒に溺れ堕ちて
「よし。やりますか」



腕まくりをし、気合いを入れ直した。

蛇口を止めてバケツを持ち上げ、こぼれないよう慎重に廊下を歩く。


築60年。和洋折衷を取り入れたこの平屋は、亡き祖父の手によって建てられた。


俺が生まれる前に1度リフォームしたらしいのだが、数年前、祖母が段差につまづいて骨折したのをきっかけに、全部屋バリアフリーに。

玄関前のスロープをはじめ、廊下、トイレ、浴室と、ありとあらゆる場所に手すりが設置されている。



「ねぇ、テープどこ?」



バケツを床に置き、リビングの引き戸を開けて大きめの声で父に尋ねた。



「んー? なんだ?」

「ガムテープどこ?」

「テープなら、そこの、下の引き出しにあるけど」



掃除機をかけながら、顎で戸棚を指した父。



「どこか外れてたのか?」

「目印が剥がれかけてた」
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