甘い毒に溺れ堕ちて
『へぇ……綺麗な名前だね』

『っ……どうも、ありがとう』

『俺の名前はわかる?』

『うん。なるみらんくん、でしょ?』

『正解。漢字はこれね』



私の右手をすくい取ると、手のひらに書き始めた。


とめ、はね、はらい。一画一画、ゆっくり丁寧になぞられる。


そのたびにこそばゆい感覚が走って、声が漏れ出ないよう固く唇を噛みしめる。



『覚えた?』

『お、ぼえた』



最後の一画が書き終わり、胸を撫で下ろした。

のもつかの間、もう片方の手が、私の左手をすくい取って……。



『真彩ちゃん、って、呼んでいい? 俺のことも藍でいいから』

『う、うん。いいよ』



そのまま両手を包み込まれた。


ただ名前を呼ばれただけなのに。

声が、頭の中で何度もこだまする。



『助けてくれてありがとう。真彩ちゃん』

『ど、どういたしまして。藍、くん』



真似して呼んでみたら、嬉しそうに目を細められた。


高鳴る心臓。急上昇する体温。顔に熱が集まる感覚。

恋愛経験が少ない私でもわかった。


──この瞬間、彼に心を射抜かれたのだと。
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