ツイてない!!〜But,I'm lucky to have you〜
「…長野先生は、二葉先生に気があるようですね」
「え、あ、いや、どうなんでしょう。私にとって長野先生は、尊敬する先輩です。それだけです」


琴羽さんは、いつもの無表情で車のエンジンをかける。私は後ろの座席にお邪魔した。

わずか10分。ペラペラとおしゃべりをする間柄でもない。二人きりの空間に無言の圧を感じてしまう。長野先生との会話を聞かれた気まずさもあるし。


「私は、医師としてやっと、スタートラインに立てたんです。医師として仕事ができることが本当にうれしくて。だから、つい自分のことは後回しというか、何というか…上手く説明できないな」

沈黙に耐えられず、なんとなくつぶやいた言葉に琴羽さんが返してくれた。

「二葉先生にとって医師という仕事は、やはり目指していた夢、だったのですか?」

質問で返されれば、会話は続けられる。私は、久しぶりに思い出を辿った。

「ハイ。
最初に『医師になりたい』と思ったきっかけは、小学生の時です。
私、自転車に乗って塾に行く途中で車とぶつかってしまって。
利き手を骨折したことから始まりました」

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