お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~


帰宅したのは午後六時過ぎ。
これから夕飯の支度だ。
お風呂は家を出る前に航太郎さんが掃除をしてセットしてくれているので、あとは洗濯物を取り込んで……頭の中で段取りを決めながらスーツを脱ぎ、エプロンを装着する。
すると玄関のカギが開けられる音がした。
え、うそ、航太郎さん? 早くない?

「ただいま、翠」

「おかえりなさい、早かったですね。 ごめんなさい、まだ夕飯の支度ができていなくて」

ドアを開けて部屋に入ってきた航太郎さんのもとへ駆け寄る。

「いや、帰宅時間を知らせなかったし、翠も帰ってきたばかりでしょ」

「はい。さっき」

「そうか。 じゃあ、今日は外に食べに行こう」

確かに夕飯を作らなくていいのはとても楽だけど、久しぶりに早く帰れた航太郎さんは家でゆっくりしたいのではないだろうか。

「もしかしてもうメニュー決めてた? それだと逆に困るよね…」

なかなか答えない私を見かね、はっとした航太郎さんは申し訳なさそうに言うので慌てて首を振る。

「いえ、それはこれから考えようと。 ただ、外食だと私はとても助かるんですけど、航太郎さんは、家で休みたいかなって」

「俺の心配してくれてたの? 翠、優しいね。
でも俺なら、翠と一緒に居られればなんでもいいから大丈夫」

にっこりと笑ってみせる航太郎さん。
やっぱり冴木に似てる。
あ、そうだ。子猫のこと、航太郎さんに聞こうと思ってたんだ。
彼のなんだか恥ずかしくなるような言葉もあり、話を逸らそうと口を開きかけるも、すぐに唇は塞がれてしまう。
「どこに行きたい?」

私の顎を捉えたままそう聞かれ、ふいっと顔を逸らす。
余計な心配だったみたいだ。
航太郎さんは不意打ちでキスしてくるくらいには元気だ。
私はやけになって答える。

「ピザが食べたいです!」

「いいね。おすすめの店があるよ。そこでいい?」

「はい」

新婚旅行から帰ってきてから、ずっとこんな調子なのだ。
隙あらばキスをしてくるし、そんなのまだ序の口で、彼は夜になると……ぼっと頬が熱くなるので考えるのを一旦やめた。
とりあえず、ピザを楽しみにしておこう。
移動中、子猫のことも話さなければ。

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