お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~

「改めて、翠さん。 三間航太郎です。 今日は来てくれてありがとう」

どこに向かっているのかも分からないまま、話し出す御曹司。
ハイスペック男子って、何考えてるかわからない。
こんな人に会うのは初めてなので、他の人がどういうものか知らないけれど。

「み、三間さん! あ、の……私は、姉の咲稀(さき)の代わりで――」

「知ってるよ。 お姉さんが急にいなくなって、不安でしょう。 でも大丈夫。あなたのことは俺が守るから」

「ぇ……は…?」

やっぱり、全然わからない。
何を持ってそんなことを?
ハイスペックだと、こういうこともサラッと言えちゃうのね。
だってその顔で言うと、なんでもかんでも良いようにしか聞こえない……。

「庭に出よう。 大きな池があって、錦鯉もいるんだ」

三間航太郎は自分のペースで物事を進めていくタイプらしい。
私はそのペースにトコトコと着いていく。
彼の方が何倍も足が長いので歩幅も大きい。小柄で着物の私に気遣って、ゆっくり歩いてくれるのがわかる。
それでも、ひよこみたいになってしまうけれど……。

三間さんはいつのまにやら呼び寄せた中居さんに草履を二足用意させると、自分が先に履いて段差を降り、またもや私に手を差し出してくる。

「おいで」

私の方が高いところにいるので、三間さんを見下ろす形になる。
こくんと頷き、手を取って足を踏み出した。
するとぐらりと体が揺れ、前のめりになってしまう。小さく悲鳴をあげ、きゅっと目を瞑って衝撃に耐えようとする。
しかし、いくらたっても痛みなど感じない。
そっと目を開けてみると、視界は黒い。
間もなくして、倒れそうになった私を三間さんが受け止めてくれたのだとわかった。

「危ない。 大丈夫? 痛いところはない?」

「ぁ……は、はい。大丈夫です。 ありがとう…ございます」

両肩を優しく掴まれて、覗き込むように聞いてくる。
あまりにも顔が近くて、ぼっと火がついたように頬が熱くなった。
生まれてこの方彼氏などいたことがない私にとって、男性とこんなに接近するのは初めてのこと。
免疫がないから、心臓に悪い……。

ゆっくりと離れ、気を取り直して草履を履く。
もう転ばないようにと自然に手を繋がれた。
大きくて硬い。
私の小さな手はあっさり包み込まれてしまった。
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