お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
5.尽きない愛情


翌日、仕事を終えて帰宅すると、松下さんが来ているのを見て足が止まる。
なんで?
しかも、なんか不機嫌そう……。
恐る恐る、できれば気づかないでと念じながら通り過ぎようとしたが、あっさりバレて呼び止められた。

「あなた、航太郎くんに言ったわね!? 私がここに来たこと!おかげで彼に怒られたじゃないっ、大恥かいたわ」

人の家に勝手にやってきては嘘をつくあなたが悪いんじゃない。なんて思うけど、あえて何も言わない。

「でもね、航太郎くんに何を言われたか知らないけれど、私たちは本当に愛し合っているのよ。邪魔をしないでくれる?」

「航太郎さんは、あなたはただの同期だって言ってました」

私が初めて口を開くと、松下さんはかっと目を見開いて声のボリュームを上げていく。

「そりゃ、優しい航太郎くんのことだもの。 いくら政略結婚だとはいえ、妻である限りはあなたのことも気にかけるに決まってるわ。 もっとも、あなたの戸籍は葦原のまま、のようだけどね」

そこまで聞いて、どくんと心臓が嫌な音を立てた。
心拍数が上がっていくのがわかる。

「どうして…それを」

「そうね。航太郎くんに聞いた、と言いたいところだけど、あなたにまた告げ口されかねないからやめておくわ。興信所を使って調べたのよ」

興信所……って、私たちのこと、知らない間に調べられていたの?
背筋に冷や汗が垂れてぞっと悪寒が走る。

「あなたの実家は不動産らしいじゃない。潰れかけの会社を、航太郎くんが救ってくれたんでしょ?いいご身分よね。それだけで航太郎くんの正妻になれるんだから」

「あなたは、何がしたいんですか?」

「何って、決まってるじゃない。あなたを航太郎くんから引き離すのよ。口で言っても聞かなそうだから、私の手で引き裂いてやるわ」

本当に怖い。
この人と下手に関わらない方がいいのは明確だった。
けれど、あくまで航太郎さんの同期であり部下という立場の松下さん。
私が逆鱗に触れるような行動をして彼に迷惑がかかるのは避けたい。
松下さんが航太郎さんの彼女っていうのは嘘だと分かっているし、なにも本気になって相手をする必要はないと思う。
やんわりとかわし続けていれば、案外すぐ諦めるんじゃない?いや、そうだと信じたい。
とりあえず、帰ってもらわないと、夕飯の支度もしないとだし。

「……すみません、急いでいるので失礼します」

「逃げるのね。まあいいわ、今日のところは帰ってあげる。 くれぐれも、航太郎くんには私が来たこと、言わないでよね」

航太郎さんに知られたくないって、後ろめたいことしてる自覚はあるんじゃない。
しかも今日のところはとか、明日も来る気だ。
勘弁してよ。私の我慢の限界に達する前に飽きてほしいものだ。
この時の私は、完全に松下という女性を甘く見ていた。

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