触れないで、杏里先輩!
すると北川君がドア側の端に座るとバリケードのように真ん中に鞄を置いた。

「電車が動いたら危ないよ?座って」

北川君がハの字に眉を下げた。

その顔を見て気付いた。

私、北川君に気を遣わせまくっている。

北川君は私のために一緒に帰ろうとしてくれているのに、一人で勝手に不安に陥っている。
なんて被害妄想が酷すぎる人間なのだろうと激しく自分が情けなくなって、私は深呼吸をすると心を決める。

「し、失礼しますっ!」

目を瞑りながら一番端に座る。
ドカッ!と座ったのは勢いが必要だと思ったから。
隣からクスリと笑われたのは気のせいではないだろう。
私は膝の上に鞄を置いて、少しでも不安が誤魔化せるように鞄の取手をギュッと握って緊張を逃がす。

「さっきの素振りだと杏里先輩と付き合ってないんだね」

そんな私に北川君が先程の会話に戻して質問を投げてきた。
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