触れないで、杏里先輩!
ゼロ。

怯えたようにちょんと触れた杏里先輩の温かい指先の温度を肌で感じ取った。
それを目でも捉えた。

でも私、気を失っていない。

それどころか、意識は鮮明だ。


「さわ、れた……」

驚きすぎて、口から掠れた言葉が漏れた。

「ちょっと待って」

杏里先輩の焦った声が聞こえてくると、彼の長い指が私の指をすり抜けて絡み、私の手をしっかりと包む。

先程よりもダイレクトに温もりを感じる。

私達はがっちり触れている。

鼓動がバクンバクンと激しく波打っているけれど、私、気を失っていないよ。

「嘘……」

杏里先輩の驚いている声を聞くと顔を上げた。
杏里先輩も同じタイミングで上げた。


「「治った……」」


手を包まれたまま、お互い見つめ合いながら同じ言葉を溢すと、数秒放心。


気絶しなかったことに喜んだが、もう終わりにしなければ。
だって杏里先輩の役目は完全にこれで終わりだから。

私は掴まれていた右手を抜き取った。
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