愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 遠慮がちに言ってみたけれど、綾星さんはいつ行ったのかは聞いてこなかった。

「仙台なら牛タンか?」

「最近のお気に入りはホヤです」

「えっ、あの磯臭いオレンジ色の?」

「はい。仙台のお寿司屋さんですすめられて、食べてみたら本当においしくて」

「そうなのか。星光がホヤを食べるとはな。思いも寄らなかったよ」

 すべてが彼には意外らしい。

 離婚という卒業を迎える旅行でようやくお互いを知る私たちって、とても残念な夫婦だ。

 交際期間にこんな旅をしていたら、あるいはこうならなかったのだろうか。

 見合いのあと結婚まで、私たちはほんの数回食事をしただけだった。

 あの時私たちはどんな話をしたんだろう。
 思い出せるのはふたりで暮らすマンションの相談とか、披露宴の祝辞の順番とか。決めねきゃいけないことは沢山あったから、恋人同士ような甘い時間を過ごせなくても不思議とは思わなかった。

 何もなかった初夜でさえ、きっと疲れているのねって思って……。

「それで星光が好きな――だ?」

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