愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 考え事をしていたせいで、反応が遅れてしまった。
「え?」

 振り向くと、彼は申し訳なさそうに眉を下げている。

「ごめんな、星光は何が好きなのか俺知らなくて。辛いものが苦手なのか?」

 あ、食べ物ね。夕べの食事でワサビを使わなかったのを見ていたのね。

 それは知らなくても無理ないでしょう。私たちが一緒に食事をしたのは数えるくらいだもの。

「えっと……。そうですね。辛いものは少し苦手ですけど。おいしければ何でも好きですよ」

「そっかぁ」

 返事が漠然とし過ぎていたのか、なんだか寂しそうに見えたから、最近はまっているのはスモークチーズですと追加した。

「スモークチーズ?」

「ブラックペッパーとか、スパイスをまぶしたものとか。コショウの辛さは平気なんです」

 たまたま頭に浮かんだまま、氷室さんの店氷の月で食べたスモークチーズをあげてみた。

 自分で作ってみて美味しくできたから言ってみたけれど、好きは好きでも少し違う。

 本当は最初に浮かんだのはチョコレートだった。
 一日一粒でもいいから口にしないといられないくらい好き。

 でも正直に言う必要はない。
 最後の旅行なのだから、深く知ってもらう必要はないし。

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